文化祭は大成功に終了する。
その打ち上げの最中、
「俺ら、すこしプロフェッショナルに近づけたかな」
「いやお前はまだまだ、俺は今日完全にプロになった気がしたよ」
「すごかったな。お客さんみんなホントに感動していたよ、私、あんなに興奮したの初めて」
「本当だよな。俺もはじめてだよ」
「これも高橋大先生のおかげだよ。お礼を言うよ、ありがとう」
「なんだよ。改まって、まあ、当然だけどな」
「そっか、当然か」
「お客さんを熱狂させて、感動させるのは当然なんだよ」
「わかるよ」
「私、高橋がすごくなるのわかるんだ。お前すごいよ、一人違うって感じ、例えるなら手漕ぎボートの私に対して、豪華客船くらいに違うよ」
「おいおい、言い過ぎだろ、豪華客船でなくて遊覧船くらいだよ」
「いや、お前は一人、別次元にいるよ。私は、まだまだだな、やめちゃおうかな」
「おいおい、急に何を言い出すんだ。始まったばかりだろ」
「いや、初めから決めてたんだ。私今日で高橋から卒業する」
「いや、待て、これからだろ。辞めるなよ。なんでか聞かせろよ」
「いや、私、高橋に告ったでしょ」
「ああ、あったな」
「あの時本当に好きだった。だから、思いきって告白したんだ」
「あの時、足震えてただろ。俺、あれがなきゃ、断ってたよ。それで」
「高橋にくっついてやっていくうちに、あこがれていた自分に気が付いたんだ」
「そっか、だから、卒業したいんだ」
「いや、今でも好きだし、尊敬してる」
「馬鹿にしてるのかよ」
「いや、私はそんなことない」
「それなら、バンドは続けられんじゃん」
「そうだけど」(涙目で)
「続けられない」
「なんで?バンドは続けても支障ないだろ。前みたいにずっと一緒にいなくてもさ」
「いや、私ずっと考えてたんだよ。私とお前がバンド組んで釣り合うかって…」
「それはないよ。仲間である以上、俺は釣り合うかどうかで判断しない」
「あなたならそういうよね。結構悪い人だけど、いい人だよね」
「そうなんだよ。悪いやつなんだけど、いいやつなんだよ」
「残る?」
「残らない」
「なぜ?」
「残らない理由ないじゃん」
「残る理由もないでしょ。ヤボ用よ、ヤボ用」
「ヤボ用?…男か」
「まあ、そんなところよ」
「いても、できんじゃん」
「やめてよ。ヤボ用なんだよ」
「ここまで言ってダメなら、あきらめるよ。さぞかしいい男なんだろ」
「お前ほどじゃないよ」
「バイバイ、もういいよ。」
「バイバイ…」
「おーい忘れ物したぞ、取りに来いよ」
「明日にする…よ」
よもぎが、忘れ物を取りに来ることはなかった。